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入学の喜びから向学心に

入学の喜びは中学校とか高等女学校に入学した場合だけに限りません。小学校に入学した喜びは、入学の喜びとして最も強烈なものでありましょう。入学試験がないから小学校入学は当然であるというならば、それは子どもの心理を解しない、子を持つ親の心理のわからない人でありましょう。這えば立て、立てば歩め、とまどろむ暇もなく成長を願った我が子。それがすくすくと伸びて学齢に達し小学校に入学する時くらい親として大きな喜びはありません。

この親の喜び以上に子ども本人の喜びも著しい。子どものこと故、入学の喜びを吹聴せず、得意さを誇示もいたしません。しかし彼らは一年生になった喜び、得意さは何に喩えようもないのです。今まで朝寝坊をしていたものが朝早く起きて学校に行く支度をする有様でしょう。ことに明日は遠足という前夜などは、嬉しくて嬉しくて眠れないくらいです。この入学の喜びを傷つけないで毎日喜び勇んで学校に行くようにすることは母親として第一の務めであります。

ところが入学の喜びは主に子どもの好奇心です。

小学校はどんなとこだろう? 学校の先生はどんな方だろう? というような、新しいものが珍しいという好奇心が主になって入学の喜びを感ずるのでありましょう。

従って小学校に入学してみると、案外つまらないと感じたり、窮屈なばかりでおもしろくなかったり、先生に叱られたとかお友達に笑われたとか、まことにささいな事柄が原因となって学校が嫌になるというものがあります。こんな子どもに、偉い人になるには学校に行かねばなりませんとか、学校は義務だから誰でも行かねばなりませんなどと、理屈で納得させて学校に行かせようとしても、それはまったくダメであります。

それで、入学の喜びを持続させ、消極的には学校が嫌にならないように、積極的には学校が面白くてならぬというように仕向けることが肝要であります。

それには第一に学校の先生の悪口を言わないことであります。新入学の児童には、自分の学校ほど良い学校はないのです。自分の学校以外の学校を知りませんから自分の学校は天下一なのであります。

また自分の先生くらい偉い人はないのです。受け持ちの先生より他に先生を知らないのですから、自分の先生は最も偉い人であります。

親から言えば、子供の入学している学校には行き届かないこともありましょう。また先生にも欠点がありましょう。子供が天下一の学校と思うのは幻想であり、最も偉い先生と思うのも幻影であります。

しかし、その天下一に良い学校、最も偉い先生という信仰があってこそ入学の喜びも大きいのであり、毎日の学校生活が楽しく、真に良い教育が行われるのであります。

それでありますから、子どもの幻想や幻影を打ち壊すような軽率はなさらないようご注意になることが肝要であります。

世の中には『なんだあんなボロ学校』とか『あんな腐った学校が何だ』とか言って、学校の悪口をなさる方があります。ボロ学校でも小さな学校でも子どもたちには天下一の良い学校なのです。それを悪口して子どもの誇り、子どもの喜びを損ねることは誠に心ない業と言わねばなりません。兄弟が異なる学校に入学している場合などには、往々兄弟喧嘩で学校の悪口を言うようなことがあり、親も不用意に『坊やの学校はボロ学校だね』などと口走ることもありますが、特に気をつけて子どもの前では学校の悪口を言わないようにせねばなりません。

また新入学の子どもには学校の先生くらい偉い人はないのです。自分の先生が一等偉い方であります。それで家庭に帰って学校の先生のことを口にします。そんな時に心ない親はわざわざ先生の悪口を言うことがあります。『なあに坊やの先生よりもお父様の方が偉いのですよ』とか『学校の先生の月給よりもお父様の方が二倍も三倍も多いのですよ』とか、また『学校の校長先生は正八位だけれど、お父様は正五位ですよ』などと言って、学校の先生を悪く言うことは良くありません。

もっともそれが事実であるにしても『学校の先生が偉い』という子どもの幻影を打ち破るには当たらないのです。『先生は偉い方』という信仰があってこそ真の教育が行われるのです。いわんや学校の先生の欠点を列挙して、先生を悪口するようなことは禁物であります。

『学校の先生は偉い人、立派な方』と子どもが信じ切ってその先生の悪口、どこがいけない、ここが悪いなどと、子どもの面前で先生の悪口を言うことは、入学の喜びを打ち破ることになり、ひいては向学心を傷つけることにもなるのです。

世には往々にして『どうも学校の先生が気に入らない』とか、あるいは『自分の子どもをかわいがらない』とか『自分の子どもに問いをあけてくれない』とか、あるいは『あの先生は頭が高い』とか、いろいろと難癖をつけて先生の悪口を言う方がありますが、子どもの教育上、特に慎んでいただきたいことであります。

またこれとは反対に、『学校の先生に言いつけますから』とか『学校の先生は恐ろしいのだよ』などと学校の先生がいかにも恐るべき人間であるかのように子どもに虚不信を起こさせるような態度をとる方があります。これもまた子どもの入学の喜びを削ぎ、向学心を傷つけることが著しいのであります(続く)

第117号 昭和15年5月22日

目次

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  • 鎮座祭近き東郷神社(写真短信)
  • 侍従武官南の海に御差遺(写真短信)
  • 太平洋の黒潮に(写真記事)
  • 浙江の水路遍に軍艦旗(写真記事)
  • 戦火とともに宣伝戦は進む<上>
  • 心を一つ皇国のために(写真入り)
  • 海外にゆく農山漁村の幸<上>
  • ふじんのページ 小学校一年生はかう導いてゆきませう<上>/次代国民の育て方<8>
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