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富士山頂の気象観測所ーーー1万2,000尺(※約3,636m)の上空で観測に従事する山の人々の生活は、扇もアイスクリームも浴衣もいらない真夏の冬ごもり。夜明けや日暮れには手が縮みあがり震えがくる。この暑いのに羨ましい限りなどと申したらそれこそ申し訳ない、地上なら1気圧すなわち760mm(※水銀柱)ある気圧が480から470mmしかない。つまり10回の呼吸が14、5回もパクパクやらねば酸素が足りないという希薄な空気の中でエンジンを動かして発電し、観測し、報告し、マッチの軸一本も剛力の方によって運ばれる物資不足の中で、高層気象の観測に当たる人々は地上から抜きん出て雲上に挺身する科学の尖兵だ。

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観測所内の黒板は雲上の科学者たちの生きた記録ーーー15日ぶりに登ってくる交替員が今日は到着するはず。朝から皆の元気が違う。上昇気流とはここでは女性登山者を指し、ゼチとは「なんと素晴らしい」の意

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ところが南洋から北上する台風が紀州沖に差し掛かってきた。5日も経ったが交替員は登ってこない。雲上の不自由な生活も、もうひと月になろうとしてきた

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発電機は故障を起こした、電灯は消されローソクが灯された。所員一同油だらけになって修理だ。希薄な空気の中での作業は徒らに呼吸が困難になるばかり。外は猛烈な台風、ビール瓶を叩きつけるかと思う豪雨だ

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(上)頂上剣ケ峰上の富士山頂気象観測所
(下)暴風雨の中で天気図を記入してゆく

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台風と、エンジンの修理と、希薄な空と真冬のような寒冷と戦って、戦い疲れた顔と顔「この風でもこの小屋が吹き飛ぶことはあるまいね」と砂糖抜きの紅茶をすする

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台風一過、翌朝は雲海の上に積乱雲がもくもくと頭をもたげて夏を持ってくる

第182号 昭和16年8月20日

目次

  • 広告「満州事変十周年」
  • 南仏印派遣 小林部隊(写真)
  • 夏草枯れる最前線 -中支(写真記事)
  • 夏に鍛える幼年学校 -熊本
  • 貝を増産 海のトラクター(写真記事)
  • 国民学校と車掌さん -名古屋市(写真記事)
  • 時局解説 国内態勢の強化
  • 戦時下の国民生活 生活と外交[5]
  • 文部省推薦だより 映画/図書/レコード
  • 最近の生活物資対策
  • 童話「かなかな蝉」
  • 陣中文芸「兵隊と姉妹」
  • 読者の漫画
  • 写真週報問答
  • 小広告「丸善アテナインキ」
  • 御神火の島へ 移動演劇隊 -伊豆大島(写真記事)
  • 隣組防犯総動記(写真記事)
  • 一万二千尺の気象台 -富士山頂観測所(写真記事)
  • 銃後のカメラ(写真週報)
  • 復習室
  • 広告「理研 糖衣ビタミン球」
  • 広告「三和信託」

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【戦時体制】富士山頂観測所の孤独

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