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かねて注目の的になっていたアメリカの武器貸与法は、去る3月8日上院を、3月11日には下院を通過し、その夕刻には早くもルーズヴェルト米大統領の署名を終わって、いよいよ新法令として成立し、ここにルーズヴェルト米大統領が昨年12月29日の「炉辺閑談」の中で述べた「アメリカを民主主義国家の兵工廠にしてもよい」と言ったことが実現されたのです。さらに翌12日、大統領は議会 に特別予算教書を送って、対イギリス、対ギリシャ、対蒋介石援助の費用として、むこう二年間に総額70億ドル、日本の円に換算すると約298億円の支出を要請しておりますが、これによって積極的に対イギリス、対ギリシャ、対蒋介石援助に全力を注ぐわけで、ここに大西、太平の両洋を通じていよいよアメリカは参戦の危機に自ら一歩前進したものということができます。この武器貸与法を中心としたアメリカ最近の動きについて少し書いてみましょう

まず武器貸与という考え方は

今度の戦争ではアメリカは非常な危険に晒されていて、アメリカの将来は安全如何はイギリスの興廃にかかっている、したがってイギリスを守ることもアメリカを守ることも同じである。イギリス援助はアメリカの国防でもあるから、アメリカは全体主義国家と戦っているイギリスの兵工廠となり、アメリカで製造した武器でイギリス国民に自国を守らせるために一時武器を貸与しようというのであって、昨年の12月29日、ルーズヴェルト大統領の炉辺閑談や、1月6日議会に送った一般教書の中で強調されたものを、民主党議員から正式に法案として提出され、3月11日、317票対71票の絶対多数で下院が、上院の修正条項を承認するとともに大統領の署名を得て公布実施されることになったのです。

武器貸与法の内容

その内容を見ますと、この法案の成立のため大統領はイギリス援助に必要な非常に広い権限を与えられ、それを駆使して実質的に、いよいよ世界戦争の舞台に乗り出して来ようというわけです。

一、大統領はアメリカを防衛するために必要と思われる外国のために、予算や契約について議会の協賛を経た上で、食糧を含む兵器廠や民間会社からどんな国防資材でも得ることができる
一、大統領はそれらの国々に対してこの国防資材を譲渡、売却、貸与その他の方法で供与することができる
一、米国と友好関係にある交戦国は、艦艇その他の戦闘用具を米国の港湾または工場で修理することができる
一、すでに完成され、または予算の協賛を得た武器のうちから13億ドルまでは他国に供与することができる

大体以上のように、表面的にはアメリカが参戦しない範囲であらゆる手段を講じて反枢軸国家を援助しようとしているのです。

武器貸与法実行予算70億ドル
(略)

アメリカ国内経済界の動き

一方これに関連してアメリカの経済界の動きを見ると、武器貸与法の成立によって戦争が長く続くという事が確実になったと考え、これからの産業方面は通貨膨張(インフレ)の恐れなど知らん顔で、本格的な軍需景気がやってくるものと見ているようです。また、70億ドルの特別予算の実施にともなって、早くも20億ドル前後の増税説や、現在24%の所得税が30%に引き上げられるだろう等ということが伝えられています。
また工業方面ではイギリス援助工場800の新設計画が国防生産管理局長によって発表されたりいたしました。
ところがアメリカのイギリス援助拡充国策遂行に一大支障を及ぼしている事があります。それは最近アメリカ全土に産業別組織会議(CIO)を中心とする鋼鉄、電気、アルミニウムその他軍需関係会社工場にさかんに労働争議が起こり罷業(ストライキ)が行われている事で、大統領はこの対策として労働争議の強制調停を司る連邦労働調停委員会をワシントンに開設して労資協調を実現させようと苦心していると伝えられています。

ドイツ・イギリスへの反響

ではこの法案成立が各国に与えた影響はどうかといいますと、イギリスではその成立を予期し待望していただけに大きな反響を巻き起こし、英首相は3月12日の議会で、同法案の成立された事について、英国及び他の民主主義国家を代表してアメリカに感謝を捧げ、アメリカはこの歴史的法案を成立させた事によって新憲法を規定し、また他の自由を愛する国民に義務遂行の模範を示したものだと強調しております。

また一方ドイツの外務当局では、ドイツの立場を闡明して、
『米国の武器貸与法成立はなんら驚くには当たらない事だ、米国の英国援助は既に決まりきった事実で、それが単に法律に成ったにすぎない。この法律の真の目的は戦争を長引かせ、アメリカがイギリスの遺産を相続しようとする点にあるが、これはモンロー主義をはずれ、国際法の重大侵害である。
しかしこれが果たしてじっさいにどれだけの効果を挙げるかは疑問で、これまでもイギリスが欲しいだけの数量の援助は得られなかったが、今後とももちろん得られないだろう。ドイツは来たるべき春期大攻勢でアメリカのイギリス援助を完全に遮断し得る自信がある』と言っています。

さてこの間に当のアメリカはこの武器貸与法の成立を機として軍備の拡充にも着々地固めを行い、3月5日にはパナマ共和国との間に、パナマ領土内にアメリカ空軍基地、防空施設建設についての協定を結び、コスタリカ、ニカラグア、グァテマラ等を南北アメリカ共同防衛政策中に収めてほぼその軍事的支配権を確立したり、両洋艦隊編成にともなう海兵増員の要員確保計画を作ったり、6隻の軍艦を南太平洋に派遣してニュージーランドを訪問したり、他の艦隊をオーストラリアに派遣したりしておりましたが、
ルーズヴェルト大統領は3月15日ホワイトハウス出入り新聞記者連盟の晩餐会の演説で新貸与法成立後に処するアメリカの反枢軸国家援助の決意を発表しました。この演説は昨年は暮れの「炉辺閑談」、本年初の議会教書によって表明されたアメリカの対外強硬態度と匹敵するものですが、特に今度の演説はアメリカが反枢軸国家援助に本格的に乗り出した門出にあたってなされたものであり、今後のアメリカ最高施策目標を示すものとして注意されます。
この演説の中で特に注目される諸点は

1 武器貸与法案の議会通貨は米国内の宥和論者のすべての企て、独裁者達との共同歩調を取れという議論、専制と暴虐政治に対する一切の妥協、以上3つに対して完全な終止符を打つものだ
2 イギリス、ギリシャその他の反枢軸国家群が要求している船舶、飛行機、食糧、戦車、重砲その他あらゆる軍需品が今後アメリカから送られる
3 蒋介石を通じて、われわれ(アメリカ)の援助を要求している支那に対してももちろん援助が与えられる
4 アメリカは民主主義国家の兵工廠となり、その役目全部を果たしつつある、かくして独裁政治諸国が分裂した時こそアメリカが世界改造の大使命を遂行する時である
5 そこで国民に対して要求されるのは挙国一致と犠牲的精神の発揮だ。各人は増税を覚悟し、低廉な利潤に安んじ、一方労働時間の延長、罷業(ストライキ)の絶滅を覚悟すべきだ
6 かくて今後われわれ(アメリカ)は未曾有の生産増加に全力を注ぎ込み、最後の全面的勝利が得られるまで反枢軸国家に対する最大限の援助が続けられるだろう

以上のような内容からみても、アメリカがいよいよ世界戦争の舞台に乗り出した事を明らかに裏書きしているものとみられるでしょう。このように武器貸与法の成立を機としてアメリカ政府の枢軸国家群に対する態度と、イギリス援助の事実はいよいよ参戦同様の実績を示すようになり、現在の欧州戦況の発展状況によってはアメリカの現実的な参戦の可能性もはなはだ多くなったと思われるのです。

このような情勢に対し、わが国民はどういう態度でこれに対したらよいであろうか。
すなわち危機が目前に迫っている事を身にしみて、あらゆる場面を想定し、万全の心構えと用意を整えて冷静にその動きを見守っていなければ成らぬと思うのです

 

第162号 昭和16年4月2日

目次

  • 広告「ソボリン」
  • 特集:笑和運動 春風堂に満つ/怒鳴り組 今ぢゃ仲良し 隣組/愛想よい 車掌に タイヤはずむなり/陽も笑う 野良に一家の御飯どき/これいかが  笑顔で渡す 代用品/家中の 笑い綴って慰問文/お役人ぶらぬ窓口新体制/能率は いつも笑顔と 二人連れ(写真記事)
  • 自ら危機を招くもの – アメリカの武器貸与法成立
  • 新らしい法律の話[1] 国民貯蓄組合法/郵便貯金法の改正
  • 小広告「オリエンタルフイルム」
  • 笑和運動誌上漫画展(イラスト・マンガ)
  • 凍土を蹴って われらは若き義勇軍
  • 四月四日は愛林日
  • 局員を泣かせる行方不明の郵便[下]
  • 写真週報問答(読者質問)
  • 小広告「週報叢書:特集『時局の重大性』
  • うち解けて 手向ける香の うらうらと – タイ、フランス領インドシナ関係陣没者追悼法要(写真短信)
  • 動く図書館(写真記事)
  • 棒が一本あれば – 東京市浅草今戸高等小学校の矛体操(写真記事)
  • あすは吾等の舞台の日 – 産業戦士厚生大会(写真短信)
  • 読者のカメラ(読者投稿写真)
  • 復習室
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表紙

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【愚かなりアメリカ】軍需景気と引き換え自ら戦争へ【米武器貸与法成立】

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