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いま日本に課されている課題のひとつは、国防国家の建設、それも寸刻を争っての完成である。この重大な問題が今になって高唱されるということはいささか遅きの感もあるが、しかし、現在の世界の政局に処してゆくために、国家が国防国家という態勢に完成していない限り、その存立を危うくする状態にあるとすれば、たとえ遅ればせでも、一路国防国家の建設に進むのが我々の責務である。

国防国家への動向

では国防国家とは、どのような必要から建設されねばならなかったのであろうか。


その出発点は、すでに第一次世界大戦の終わった頃に遡らねばなるまい。世界大戦の戦勝国は、ヴェルサイユ条約というドイツにとっては過酷に過ぎ、戦勝国の間でも不均衡すぎる世界を作り上げた。少数の国家が、これによって自国の利益のために戦敗国ばかりでなく戦勝国の多数に対してまで支配の力を強化しようとした。その動向の表れは、その後に生まれた国際連盟や軍縮会議にもそのままにこの精神が持ち続けられていることでもわかる。
かれら少数の国家は、戦敗国からは完全に武器を取り上げ、戦勝国からもその武力をできるだけ削り取ることによって世界に平和が保たれるとの夢想を抱いていたのであろう。しかも彼らは、これをもって平和主義、人道主義、合理主義、自由主義、と称して、ただ空念仏で大多数の世界を説教することに努めたのである。
ヴェルサイユ条約の不合理はついに二つの重大な結果を生んだ。ひとつはドイツの勃興、ひとつは連盟からの日伊の脱却であった。
(略)
こうした不合理は永続するのが不思議であった。 (略) 東亜新秩序建設の除幕となった満州事変をきっかけに日本は国際連盟、軍縮の桎梏から逃れた。
ドイツはヒトラーの出現によって営々と国力を充実し、失われた地域の回復に乗り出した。
イタリアはエチオピア戦によって彼ら(国際連盟)から離脱してしまった。
こうして世界は、伸びるものと守るものの二大陣営にはっきりと分割されていったのである。

国際的戦国時代

(略)
では何故に国防国家の建設は必要か。その例証は今の世界がいたるところに示している。いま世界は戦国時代にも譬えられよう。力と力の火花飛ぶところ、その累はどこに及ぶか測られない。昨日の敵は今日の味方、今日の味方は明日の敵かもしれない。国と国の間には真の人情はない。義理もない。あるものは力と力の争覇であり、力の強いもの、国防力の強いものが勝者として生きることにもなる。
頼りになるのは自分だけの力しかない。状況に応じて自分を慕い寄るものを味方としてもよいであろうが、それに全幅的に頼り切る気持ちは捨てなければならない。その自信の根本には、自己の力に頼る、自己の力だけでやり遂げるという決意が必要である。
(略)

国防力とは何か

国防力ということの中には、先のように武力、経済力、国民精神力、科学力が備わっていなければならない。ところでこれらは、今言ったように別々に切り離されて充実していても何にもならないのであって、それらがうまく組み合わさってひとつの強力な力となっていなければならないのである。

まず武力から考えてみよう。
戦争をやる上で一番必要なのはもちろん武力である。武力という中にも軍人の質とか、戦略とか、兵器などが考えられるが、その中の戦略は、これは軍人の職分である。一般国民の武力の中で占める部分は兵器と人間的質の問題である。

戦争の形式がまだ近代化されていなかった頃には兵器も少ししか必要でなく、したがってその製造も小規模なもので済み、それを国家が、特に軍だけが製造しても間に合っていたのであるが、兵器の種類も多くなり、その精巧さも増してくると、とてもそれを軍だけで造っていたのでは追いつかなくなってきた。それに日進月歩の発達に立ち後れないためにも、一般の知恵を仰いで改良や発明に努力せねばならなくなってきた。
そこで武器の生産が一般民間の工場に任せられることになってきて、そのため軍備の充実がきわめて大規模に、しかも高度にやれることになってきた。
(略)
また戦争はいつもあるものではないから、四六時中武器の製造ばかりはやっておれない。平常は他のものを造っていても、ひとたび事ある時には武器製造に早変わりできるようにもしておかなければならない訳である。
この例は、例えばアスピリンで有名なドイツのバイエル染料会社が世界大戦中は火薬工場になっていたが、戦後はまた染料製造に立ち返ったことや、
飛行機工場や造船工場が平時は民間用を主として造っていて、その技術や資財の充実をはかっておき、戦争になればたちまち戦時体制に移るといったように、いたるところに見られるのである。ここにも民間の力がある。
ところで、そこに必要になるのは、それを製造する人の体力、技術、数である。昼夜兼行の大生産には強靭な体力が必要である。それを養うためには、各自の心掛けはもちろんのこと、工場でも各種の福利施設として生産者の強靭な体力の養成と維持に努めねばならない。
(略)
軍備の充実という点からだけでもちょっと重要なものがこれだけある。決して武器生産ということが国民全般から離れたものでなく、むしろ国民全般に通じた問題であることが、これだけからでもわかるはずである。ここに国家総力戦と言われるひとつの理由がある。

政治の新体制

こうした国家総力戦態勢の要素を、もっと大きく考えてみよう。
一国のこうした態勢の運営は、もちろん政治である。
武器製造、人の質と数の問題、そのための国民体位の向上、医療福祉施設、人口増加方策、また国民生活の安定などは、すべて政治である。
そしてわが国の政治の根本は、わが肇国の国是に基づいて天皇親政を根幹とし、わが国の家族制度を基調とした完全な家族的生命体を構成することに理念がおかれていなければならないことは言うまでもない。
この上に立って政治体制を強化し、しかも敏速果断適切に処理してゆかねばならないのである。
そこで、政治の新体制が必要となってくるのである。

経済新体制

政治の基礎と人心の安定は、皇国の経済に中心がおかれねばならない。国民の全部が、その知識技能の限りを以て国家奉公の精神に燃え、いやしくも個々の利益や個々の栄達を心掛けるべきではない。
(略)
経済建設の方向は、この根本の考えからさらに進んで三つの重要な点に向けられねばならない。
そのひとつは、わが国産業の自主的確立である。今のように重要産業の大部分を外国の資金や技術に仰いでいるようでは、いつ何時その命脈を断たれるかもしれない不安がある。またこれは防諜の上から言っても一日も早くわが国の経済一般が完全に自主的な体制に整備再組織されねばならないのである。
その2は、戦争遂行に資源の必要は言うまでもないから、それに必要な資財は、わが国の勢力下にガッチリ握りしめておかなければならない。むしろ、これが完成すれば、第一のことも自ずから解決の曙光は見えてくるであろう。
第3は、国民の経済的な負担の公平である。平時には奢侈品製造家が儲け、戦時には軍需製造家が儲けるといった金儲けの堂々巡りは国家総力戦の態勢ではない。平時にも戦時にも、分に応じ技に即した利益が確保され、国民がその禍福の平等感を分け持たねばならないのである。しかも一人の怠慢功利は万人の損失になることを各自が意識してゆかねばならない。新しい経済道徳の確立が必要である。

教育新体制

これらの意識の昂揚と、各自の科学的水準の向上には教育の力が預かって大きい。教育は国民の精神を指導し、国家目的へ国民をいつでも動員しうるように教化しておくことにある。
昔から世界の舞台に覇を唱えたものは、常にその教育ーー宗教、文化科学、自然科学、芸術、思想ーーによってきた。
武器によって叩かれる時は正面切って反発する国民も、教育文化の弾丸の前にはだらしなく降伏してしまうものである。(略)
わが国が今、新体制の樹立を叫んで東亜共栄圏の確立に邁進する時には、わが国独自の国家原理、思想、科学の確立がまずもって肝要である。それこそが文化日本の最新最鋭の武器となるものを創りあげねばならないのである。国家施設としての科学の振興策、研究機関の充実、科学者の優遇ももちろん重要なことではあるが、各自が自ら進んでこの奉公に協力し、自らがその天地を開拓するという誇りを持ってあたってゆくことはさらに重要なことである。思想戦、国民防諜の叫ばれる今日、この自覚、この覚悟こそ、もっとも国民に要望されるところであろう。

新治癒所の推進力 日本

わが国の隣接を見ると、東には世界一の海軍と黄金を誇るアメリカがある。北と西には世界一の陸軍と赤化思想を持つソ連があり、その上なおイギリスの必死の抵抗が動いている。
日本は今、この世界に無比な障害のただ中に立っている。この環境を見渡しただけでも、わが国が今は一歩も後退を許さず、断々固として国防国家の建設へ邁進する一途しか残されていないことは、誰にしてもわかることと思う。しかも、わが国は大陸に3年の新東亜建設戦を戦ってきて、なおまだ当分はこれを続ける必要がある。この一面戦争、一面建設の重大責務は、ただ大陸のみにとどまらず、国内体制の中にもその闘いは展開されてゆかねばならない。これは単に、現下の国際情勢がわが国にそうした任務を帯びさせたというだけではない。国際情勢が仮に今のようにならなかったとしても、日本の自立と、東亜の安定のためには日本の進むべき道であったのである。建設は容易ではない。しかしわれわれは今や一段と覚悟のほぞを固めて、東亜新体制のために、そして目下は日本の新体制のために手を取り合ってゆこうではないか。
これが皇国2,600年にあたってわれわれに課された名誉ある使命である。

第131号 昭和15年8月38日

目次

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  • 暦 – 9月(写真付き)
  • 特集:日韓併合30年 裏工業朝鮮は躍進の一途へ/北鮮の国境はゆるぎなく/朝鮮の志願兵はますます健やかに(写真記事)
  • 負うた子に教えられ 少年少女の交通整理団(写真記事)
  • 国防国家とは その建設は何故必要か
  • 銃後点描 節米の側面推進隊(写真付き)
  • 公使を交換する濠洲とはどんな国(地図写真付き)
  • ふじんのページ 勤労女性隊報告書/勤労日誌
  • 小広告「日清生命」
  • 海外小話
  • 写真週報問答(読者質問)
  • 大学生の海鷲入門(写真記事)
  • カンガルーと羊の大陸オーストラリア(写真短信)
  • 大の男が馬に乗れなきゃ(写真記事)
  • 読者のカメラ(読者投稿写真)
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表紙

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